平成28年2月1日、日本商工会議所から「商工会議所簿記検定試験出題区分表(平成28年度適用)」が公開され、平成28年度(平成28年6月12日施行の第143回試験、11月20日施行の第144回試験、平成29年2月26日施行の第145回試験)の試験範囲がようやく確定しました。
この発表を受けて各出版社からも続々と新出題区分対応をうたったテキスト・問題集の発売がスタート。
2月下旬には各社のテキスト・問題集がだいたい出そろいました。
ただ、今回の出題区分の改定の内容はなかなか複雑で、これから勉強を始める方はもちろん、過去に受験経験があって簿記検定に再チャレンジしたいという方にとっても、その実態をフォローするのは大変。
そこで、日本商工会議所から発表されている出題区分表を見て試験対策を考えるのではなく、信頼できる出版社のテキストや問題集を揃えて勉強するというのが一番確実で簡単な方法です。
私は最近、簿記のテキストが出そろったタイミングで、都内の大手書店さんに寄って簿記のテキストについてチラ見してきました。ところが、一部の出版社のものは「新出題区分対応」をうたっているにも関わらずその中身が古いままで、実は新出題区分に対応していないものがあるとことがわかってびっくり。
表紙に「新出題区分対応」と書かれていたら、ほとんどの方はそれを信じると思います。でも、きちんと中身を見てから判断しないと、新出題区分に対応していないテキストを買わされることになってしまいます。
ただ、これから簿記の勉強を始めようという方に、書店で立ち読みしただけでその内容を判断させるのは酷な話。簿記のテキストや問題集は勉強の要なのに、内容が不十分な本が出回っているというのは困った話ですね。
そこで今回、管理人は新しく出版されたテキストや問題集を可能な限り用意して、徹底比較してみることにしました。
これから簿記の勉強を始めようという方は、テキストを購入する前にここを読んでテキスト選びの参考にしてみてくださいね。
(内容は随時更新していきます。)
簿記のテキスト・問題集を買ってきたよ!
…というわけで、早速簿記のテキスト・問題集を買ってきました。
用意したのは次の10冊。
- スッキリわかる 日商簿記3級 第7版 テキスト&問題集
- スッキリわかる 日商簿記2級 商業簿記 第8版 テキスト&問題集
- みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商3級 商業簿記 第4版
- みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商2級 商業簿記 第5版
- パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級 テキスト&問題集 第2版
- パブロフ流でみんな合格 日商簿記2級 商業簿記 テキスト&問題集 第2版
- サクッとうかる日商3級商業簿記 テキスト+問題集
- サクッとうかる日商2級商業簿記 テキスト+問題集
- 3級商業簿記〈平成28年度版〉 (【検定簿記講義】)
- 日商簿記2級 光速マスターNEO 商業簿記 テキスト
この10冊を徹底比較していきたいと思います。
新出題区分対応のテキスト&問題集を徹底比較!
テキストや問題集を書店で立ち読みして本を選ぶ際のポイントを上げておきます。
立ち読みをする際には、次のポイントを必ずチェックするようにしてみてくださいね。
- 奥付をチェック!
- 表紙や帯をチェック!
- 勘定科目をチェック!
- 「テキスト&問題集」の問題数をチェック!
1.奥付をチェック!
テキストを手にしたら、まずは奥付をチェックしましょう。奥付というのは、本の一番最後の方にある、書名や著者、発行年月日が書かれている部分です。
「平成28年度摘要の出題区分表」が確定したのが日本商工会議所がこれを発表した2016年2月1日。ですから、この日付以降に出版された本でなければ試験に対応しているとはいえません。
発行年月日が2016年2月以降かどうか、この奥付部分を見て必ずチェックするようにしましょう。
日商簿記3級
ネット上で”救いの神”と話題沸騰したパブロフ簿記。
ところが、日商簿記3級用のテキスト&問題集の奥付を見ると「2015年9月17日初版第1刷発行」となっていました。
表紙の右下には「本書は旧範囲(平成28年2月試験まで)新範囲の(平成28年6月から)のいずれにも対応」と赤字で記されていますが、これでは残念ながら新出題区分に対応しているとはいえませんね。
3級ではパブロフ簿記以外のものは、いずれも平成28年(2016年)2月1日以降の発行となっていました。パブロフ簿記以外の4冊はチェックポイント1通過です。
日商簿記2級
2級のテキスト&問題集は、全て平成28年(2016年)2月1日以降発行でした。
ですので、この5冊はチェックポイント1を無事通過です。
2.表紙や帯をチェック!
奥付をチェックしたら、次は表紙を見てみましょう。簿記は競合が多いので、ついつい自分の本がよく売れるように調子のいい文言を入れて派手なアピールをしがちです。
表紙や帯をチェックしてツッコミどころがないか探してみましょう。
日商簿記3級
ネットスクールから出版されているサクッとうかる日商3級商業簿記 テキスト+問題集。
表紙を見ると、ちょっと面白いことが書いてあります。
変化の時代だから、質問できる優しい本
というキャッチコピーなのですが
「変化の時代だから質問できる?」「初めから質問されることを予定している?➡テキストの中身は質問しないと理解できない!?」といった、ちょっと意味不明な内容。この本を使ってもいいのかな?と少し不安になってきてしまいました。
まあ中身がよければ問題はないですが…。
パブロフは出版年が古かったので除外します。(新しく出たらしっかり検討しますね。)
残った3冊のテキストについて見てみると、まず検定簿記講義のテキストは
平成28年6月からの新試験範囲に完全対応!
となっており、「平成28年6月からいつまでなの?」というのがちょっとわかりにくいのに対して、スッキリわかると簿記の教科書(いずれもTAC出版)は
今年度の試験範囲にキッチリ対応
と書かれており、この本が平成28年度の一年間、きっちり対応していることがわかります。細かいですが…。
日商簿記2級
2級では、日商簿記2級 光速マスターNEO 商業簿記 テキストの表紙が目を引きました。
どの部分かというと
最短で7日!着実に12日!万全なら15日!
と3つの学習プランが示されているところ。
この日数で勉強を終えられて、かつ合格できるというのであればまさに画期的なことですが、まだ新制度の試験がまだ実施されていない段階でここまで言い切るのはチャレンジャーですね。
他のサクッとうかる、パブロフ、スッキリわかる、簿記の教科書については、3級と同じ状況なので省略します。(3級の該当箇所をお読みください。)
3.勘定科目をチェック!
奥付と表紙、帯をチェックしたら、いよいよ内容のチェックです。
とは言っても、全部の本を読んで細かくチェックするのは不可能。変更があった勘定科目など簡単なチェックポイントを抑えておけばまずはOKです。
変更箇所のポイント
今回の大きな変更箇所は、「商工会議所簿記検定試験出題区分表(平成28年度適用)の公表について」に示されています。
チェックポイントは
- 「未収金」ではなく、「未収入金」
- 「為替手形」は2級、3級では出題されない。
- 「引受」は使わない。
の3つ。
これなら立ち読みで十分チェックできそうですね。
「未収入金」をチェック!
今回の出題区分の改定により、営業外取引の債権を示す勘定科目は「未収金」がサブ、「未収入金」がメインとされました。「未収金」を使ってはいけないということではないのですが、今後はメインの「未収入金」をまずは覚えておく必要があります。
そこで、テキストをチェックするときは
- 今まで未収金だったところが、未収入金に修正されているか
を必ず確認するようにしてください。
確認の仕方ですが、本文から探すのは大変なので、目次や索引に「未収金」が残っているかどうかで判断します。
ためしに、3級のテキスト5冊の索引を見てみましょう。
- スッキリわかる 日商簿記3級 第7版 テキスト&問題集 さくいんP84「未収入金」➡OK
- みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商3級 商業簿記 第4版 索引P298「未収入金」➡OK
パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級 テキスト&問題集 第2版索引P343「未収金」➡NG- サクッとうかる日商3級商業簿記 テキスト+問題集 さくいんP343「未収入金」➡OK
- 3級商業簿記〈平成28年度版〉 【検定簿記講義】 索引P322「未収入金」➡OK
このような結果になりました。NGとなっている書籍については注意してくださいね。ちなみに【検定簿記講義】ではP285 第140回の本試験問題の勘定科目群に「未収金」が残っていました。惜しい!
2級のテキストではどうでしょうか?
- スッキリわかる 日商簿記2級 商業簿記 第8版 テキスト&問題集 本文P131 「未収入金」➡OK
- みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商2級 商業簿記 第5版 本文P131 「未収入金」➡OK
パブロフ流でみんな合格 日商簿記2級 商業簿記 テキスト&問題集 第2版索引P367 本文P55「未収金」➡NG- サクッとうかる日商2級商業簿記 テキスト+問題集 本文P75 「未収入金」➡OK
日商簿記2級 光速マスターNEO 商業簿記 テキスト2級INDEXP422 「未収金」➡NG
NGとなっている書籍は要注意です。
「為替手形」をチェック!
今回の出題区分の改定により、「為替手形」は2級、3級では出題されないことになりました。「為替手形」は実務でもほとんど使われなくなったちょっと時代遅れなもので、しかも3級受験生泣かせの難解な論点だったのでこれは朗報です。
そこで、テキストをチェックするときは「為替手形」の項目が残っていないかどうかを確かめるようにしてください。
今回取り上げているテキストの中では、出版年月が2016年2月以前のパブロフ簿記3級だけ「為替手形」の項目がバッチリ残ってしまっていました。
パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級 テキスト&問題集 第2版本文P70以降「為替手形」の項目が以前のまま➡NG
うーん…。
この状態で「新範囲(平成28年6月から)…」に対応と書くのはいかがなものかという気がします。やはり最低限、2016年(平成28年)2月以降に出版された書籍でなければダメですね。
4.「テキスト&問題集」の問題数をチェック!
簿記はいくらテキストを読んで内容を理解しても問題を解けるようにはなりません。
当サイトでも何度も強調していますが、試験で合格点を取るためには、たくさんの問題を解いて「練習」する必要があります。
ですから簿記の場合、問題集はテキストと同じくらい重要です。
最近は、テキストと問題集を合わせて「テキスト&問題集」として出版されている本も増えてきました。
確かに、テキストと問題集で普通なら2冊になってしまうところ、1冊にまとめてくれたらコンパクトで持ち運びもしやすく便利ですよね。
ただ、ちょっと調べてみると「テキスト&問題集」とは名ばかりで、実は問題がほとんど収録されていない本があることがわかり、びっくり!
「テキスト&問題集」タイプの本を購入する際は、どのくらいの問題数が収録されているか必ずチェックするようにしましょう。
3級「テキスト&問題集」をチェック!
今回当サイトで用意した本の中で、「テキスト&問題集」タイプになっているものは次の 冊。問題集の問題数と該当するページ数をチェックしておきましょう。
まずは3級から…。
- スッキリわかる 日商簿記3級 第7版 テキスト&問題集 問題79問、解答用紙付き、本試験と同じ形式のチェックテスト1回分 ➡OK
- パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級 テキスト&問題集 第2版 練習問題85問、答案用紙(一部あり) ➡OK
サクッとうかる日商3級商業簿記 テキスト+問題集基本問題33問、答案用紙(一部あり)、問題集編の問題5問 ➡NG
「スッキリわかる 日商簿記3級」には、書籍の後半部分に問題編がついており、テキスト部分に対応した問題が79問収録されています。ページ数にすると解説を含めて約80ページ。解答用紙も別冊で用意されているので、書き込みながら問題を解く練習をしっかり行うことができます。
「パブロフ流 日商簿記3級」には、テキストの本文に挟み込まれるようにして練習問題が85問収録されています。解説も詳しい。問題編が別になっていないので、若干使いにくいという面はあるかもしれませんが、問題集としての機能は備わっていると思います。
「サクッとうかる 日商3級」には、ところどころに基本問題が収録されています。問題数は33問と少ないですね。問題集編というのが後半にありますが、本試験形式の問題が1回分です。3級とはいっても、これでは問題数が少なすぎて知識が定着しないと思います。テキストとしては成り立っていますが、「テキスト+問題集」というには、問題数が少なすぎると思います。
…というわけで、「スッキリわかる 日商簿記3級」と「パブロフ流 日商簿記3級」は、書名どおり「テキスト&問題集」となっていますが、「サクッとうかる 日商3級」は問題集部分が貧弱なので、あくまでも「テキスト」と思った方がいいですね。
2級「テキスト&問題集」をチェック!
2級の本で「テキスト&問題集」タイプのものを見ていくことにします。
- スッキリわかる 日商簿記2級 商業簿記 第8版 テキスト&問題集 問題55問、解答用紙付き、本試験と同じ形式のチェックテスト1回分 ➡OK
- パブロフ流でみんな合格 日商簿記2級 商業簿記 テキスト&問題集 第2版 練習問題117問、答案用紙(一部あり) ➡OK
サクッとうかる日商2級商業簿記 テキスト+問題集基本問題26問、答案用紙(一部あり)、問題集編の問題5問 ➡NG
「スッキリわかる 日商簿記2級」には、書籍の後半部分に問題編がついており、テキスト部分に対応した問題が55問収録されています。ページ数にすると解説を含めて約62ページ。解答用紙も別冊で用意されているので、書き込みながら問題を解く練習をしっかり行うことができます。
「パブロフ流 日商簿記2級」には、テキストの本文に挟み込まれるようにして練習問題が117問収録されています。1問1問が短いので比較が難しいですが、解説も詳しくよくできていると思います。問題編が別になっていないので、若干使いにくいという面はあるかもしれませんが、問題集としての機能は十分備わっていると思います。
「サクッとうかる 日商2級」には、ところどころに基本問題が収録されています。問題数は26問と少ないですね。問題集編というのが後半にありますが、本試験形式の問題が1回分です。これでは問題数が少なすぎて物足りないですね。知識が定着しないと思います。「テキスト+問題集」というよりは、あくまでも「テキスト」だと思ったほうがいいと思います。
…というわけで、「スッキリわかる 日商簿記2級」と「パブロフ流 日商簿記2級」は、書名どおり「テキスト&問題集」となっており信頼できますが、「サクッとうかる 日商2級」は問題集部分が少なくおススメできません。
結論まとめ
以上、ざっとではありますが、各社の「テキスト」と「テキスト&問題集」を徹底比較してみました。最後に当サイトの結論をまとめておくことにします。
日商簿記3級のおすすめ
3級では、出題区分の改定に対する対応がしっかりしていて内容が信頼できる、「テキスト&問題集」の問題集がよく出来ているという点から考えて
のどちらかにしておいた方が安心です。
また、出題区分の改定に対する対応など問題はあるものの
の2冊も使えないことはないと思います。
日商簿記2級のおすすめ
2級では、出題区分の改定に対する対応がしっかりしていて内容が信頼できる、「テキスト&問題集」の問題集がよく出来ている、平成29年度&平成30年度新論点編テキスト(150ページ以上!)が別冊で付いてくるという点から考えると
のどちらかをおすすめします。
▶スッキリわかる 日商簿記2級 商業簿記のレビューはこちら
▶簿記の教科書 日商2級 商業簿記のレビューはこちら
もし、書店で立ち読みしてみてフィーリングが合ったということでしたら
でも行けると思います。ただし出題区分の改定については十分注意してください。